えん罪事件である名張毒ぶどう酒事件。
2005年4月に名古屋地裁で再審開始決定が出てから既に8年が経過、最高裁が再審開始決定を取り消した名古屋高裁の取消決定を是認しました。
「名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求第2次特別抗告審決定についての会長声明」(日弁連2013年10月18日)最高裁のこの間の姿勢は一貫しており、高齢となった再審請求者が死亡するのを待っているという姿勢がありありです。
少なくとも現在の視点において名張毒ぶどう酒事件をどのように裁判がなされるべきなのかどうかが正面から問われています。
本来、再審請求の場合には一度、なされた裁判を覆すということから、新たな証拠が必要とされています。その新たな証拠とそれまでの証拠を評価し、疑わしきは罰せずの原則を当てはめるということになります。
しかし、それが正当化できるためには、前提として最初の裁判がまともに行われていたということが言えなければなりません。
自白偏重の無理矢理、有罪にしてしまったような裁判を前提に「新証拠」を要求するのは問題外だということです。
過去に起きたえん罪事件の構造は、無理矢理、自白させ、捜査機関によって作文された自白調書によって「有罪」とするのがお決まりパターンでした。
「自白」に依拠するということは物証を得られないことの裏返しなのですが、これが非常に恐ろしいということなのです。
捜査機関による思い込みだけで終われば、まだいいのですが、裁判所までがそれを是認してしまうことがさらにこの恐ろしさを増幅させます。
現在、名張毒ぶどう酒事件のような証拠構造(自白偏重)で起訴された場合、十中八九、無罪判決となるでしょう。無罪でなければおかしいのです。あるいは起訴もできないかもしれません。
今回の再審請求も現代の視点では到底、有罪にできないものについてまで門戸を閉ざすことの是非が問われているということを知るべきです。
それを未だに最高裁は、「合理的な科学的根拠のある鑑定を基にしており、自白の信用性も揺るがない。高裁判断は正当」と自白偏重を追認しています。古い時代の刑事手続きだから仕方ない?
そんなことを言ったらもっと前の事件も同じように「無罪」にする?今、生きている人の救済が考えられないようではダメです。決して古い時代の刑事手続きではありません。
少なくとも日本国憲法下で起きた事件で、この放置は悪行です。先日、帝銀事件の元死刑囚の養子である方が亡くなっため再審請求を引き継げなくなったと報道されていました。この帝銀事件はこのまま闇に葬られようとしています。
戦後に起きたえん罪事件が放置されたまま、刑事裁判は次にどこに行こうとしているのか、刑事訴訟手続きが「改善」されてきたとはいえ、まだまだ発展途上にある中で、過去の手続きへの姿勢が問われているのです。その意味では姿勢が問われているのは裁判所だけはありません。検察庁、法務省にも向けられているのです。
検察官は「有罪」維持で頑張ればいいというものではありません。検察官は公益の代表とされているのであり、有罪屋ではないのですから、適正な刑罰になっているかどうかの検証が必要です。
戦後のえん罪事件を見る限り、裁判所だけの問題ではなく、検察庁(法務省)の問題でもあることは明白です。
現行法上、再審請求できるのは特定の遺族に限るという制度もどうかと思いますが、他方で検察官も再審請求をできると規定されているのです。
少なくとも検察官は有罪判決に耐えうる証拠がないような事件については再審請求をすべき職責があると言えます。
検察官が名張毒ぶどう酒事件や帝銀事件などを本気で「有罪」と思い込んでいるとしたら、それもまたひどい病理だと思います。軍法会議はえん罪だらけだったでしょうね。
「死刑という国民動員への脅迫 石破茂自民党幹事長」
「再審」タグアーカイブ
「日本の警察、検察、裁判所はよく考えて、悪いところを直して下さい」。弁護団の戦いは、まさにこの三組織の「悪いところ」をあぶり出す作業でもあった。/ | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
無罪が確定した日、ゴビンダさんはこう言った。「日本の警察、検察、裁判所はよく考えて、悪いところを直して下さい」。弁護団の戦いは、まさにこの三組織の「悪いところ」をあぶり出す作業でもあった。
引用:東電OL殺人事件 テレビにも出ないしカネももらわない ゴビンダさんの弁護団 15年間の冤罪法廷で勝ち取ったもの | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
<大阪女児焼死>検察実験でも放火は不可能 弁護団が発表/(毎日新聞) – Yahoo!ニュース
毎日新聞 5月29日(水)23時31分配信
大阪市東住吉区で1995年に女児が焼死した事件の再審開始決定に対する即時抗告審で、元被告の弁護団は29日、検察側の燃焼実験でも、自白通りの放火ができないことを示す結果だったと発表した。大阪地裁は昨年3月、弁護団による同様の実験結果を新証拠と認めて再審を決めたが、「自白通りの放火は可能」と主張する検察側が独自に実験した。弁護団は「検察側が再審開始の根拠を覆すのは難しくなった」としている。
東電OL殺人事件 テレビにも出ないしカネももらわない ゴビンダさんの弁護団 15年間の冤罪法廷で勝ち取ったもの | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
ゴビンダさんが強盗殺人容疑で逮捕された’97年当時、警視庁の捜査一課長だった平田富彦氏は、本誌の取材にこうまくし立てた。
「私はいまでもゴビンダは真っクロだと思ってます。無罪判決は司法が世論におもねった結果だ。マスコミはゴビンダの好青年の部分ばかりを報じているが、彼には裏の顔もある。バイト先の店主が『あれは不良外人だ』と言っていた。捜査員は死に物狂いで捜査して、他にも容疑者がいる可能性を二重三重に検証した末に逮捕した。部下に辛い捜査をさせた私が、ゴビンダはクロ、という持論を捨て去るわけにはいかない」
これは平田氏個人の見解ではない。警視庁はゴビンダさんの無罪が確定すると、龍一文・捜査一課長名でこんな声明を出した。
「司法の判断にコメントする立場ではないが、無罪判決が出たことは真摯に受け止め、今後の捜査にいかしていきたい」
司法の判断に納得していない、という本音が行間から伝わってくる。
「あの事件では弁護人にものすごく捜査妨害された。ゴビンダを逮捕した晩、弁護人が接見した途端に完全黙秘になった。留置場から(取り調べに)出てこないこともあったが、それも弁護人の入れ知恵。神山、神田、佃の『カンカンツク』ですよ」(平田氏)
当時、捜査一課の刑事たちはゴビンダについた神山啓史、神田安積、佃克彦の三弁護士を「カンカンツク」と呼んで忌み嫌っていた。このエピソードを聞き、「それはむしろ名誉なことですね」と語るのは、カンカンツクの一角をなした佃克彦弁護士(48歳)だ。
引用:東電OL殺人事件 テレビにも出ないしカネももらわない ゴビンダさんの弁護団 15年間の冤罪法廷で勝ち取ったもの | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
でたらめな「自白」しか証拠を持っていない検察の主張が通るはずもなく、’11年、桜井さんと杉山さんの強盗殺人容疑について無罪が確定した。/ | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
布川事件—。
’67年、茨城県利根町布川で大工の男性が殺害された。警察は桜井昌司さんと杉山卓男さんを別件で逮捕。容疑を”自白”したとして、検察は強盗殺人罪で起訴した。二人は「自白は強要されたもの」として容疑を全面否認したが、’78年、無期懲役の判決が確定した。
二人は’96年に仮釈放された後も身の潔白を訴え続け、弁護団の丹念な証拠開示請求によって、事件現場に二人の痕跡が残されていないこと、検察が証拠とした自白テープに改竄の跡が見られることなどが新たに判明。そして’05年に水戸地裁が、「有罪とした証拠の信用性に疑問が生じた」として再審開始を決定した。この時点で、二人が無罪になることはほぼ既定路線と思われた。
だが、’10年に始まった再審の公判で、当時、水戸地検の三席検事だった上本検事は無期懲役を求刑したのだ。もちろん、でたらめな「自白」しか証拠を持っていない検察の主張が通るはずもなく、’11年、桜井さんと杉山さんの強盗殺人容疑について無罪が確定した。逮捕勾留から44年かけて、ようやく無実が証明されたのである。
引用:連続追及 第9弾 PCなりすまし事件 やっぱりひどい!自白強要なんて朝飯前 取調官は「冤罪検事」と呼ばれる男 | 経済の死角 | 現代ビジネス [講談社]
マイナリさんは、再審無罪が確定した同様の事件「布川事件」の成り行きを見た上で「勝訴の見込みがあるならば、起こすかもしれない」と語った。(共同)
1997年の東京電力女性社員殺害事件で再審無罪が確定したネパール人ゴビンダ・プラサド・マイナリさん(46)が29日、ネパールの首都カトマンズの自宅で共同通信と会見し、日本で約15年にわたり不当に身柄を拘束されたとして、国家賠償を求めて日本政府を提訴する可能性を明らかにした。
また日本政府に対し「関係者がネパールに来て、私や家族、全てのネパール人に謝らない限り、絶対に許せない」と公式な謝罪を要求した。
マイナリさんは、再審無罪が確定した同様の事件「布川事件」の成り行きを見た上で「勝訴の見込みがあるならば、起こすかもしれない」と語った。(共同)