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国連で、日本の刑事司法が「中世レベル」と酷評されてしまう理由を、説例を交えて説明します/向原・川上総合法律事務所

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“Title : 国連で、日本の刑事司法が「中世レベル」と酷評されてしまう理由を、説例を交えて説明します/向原・川上総合法律事務所
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2014-02-28 09:35:36
テーマ:法律 裁判
裁判員裁判で発行される、速記録の代わりとなる裁判所の尋問等の録音データは、VistaやXPでしか再生できないとの話が、Facebook上で、我々関係者の間で話題になっています。

裁判員裁判では、被告人質問・尋問関係が終わったら、翌日に弁論しなければならず、その間に弁論要旨を作る必要があるので、非常に困りますね。

もう、法廷で録音させてくれたほうが、どんだけいいか・・・

検察官側は、どうやってるのでしょうね。
もっとも、検察庁には、XPやVistaのPCがゴロゴロあるのかもしれないですね。
なにしろ、弱小の法律事務所(弁護士)とは、そのリソースが全然違いますからね。

ここでハタと気づく。
これは、まさに、刑事裁判の根底にある問題です。

刑事裁判は、まさに、検察庁と被告人側=弁護人側間の戦争に近いといえます。

戦争する以上、武器対等でないと、勝ち目はありません。
かたや戦闘機と爆撃機、かたやタケヤリでは、絶対に勝てません。せめて高射砲ぐらいの武器が欲しいところです。
しかしながら、検察庁と弁護人では、「武器」となるべき証拠収集能力の点で、すでに大きな差があります。
(検察庁)
・自ら指揮命令権をもって警察という実働部隊を手足のように用いて自在に証拠を収集できる
・令状を請求できる(ガサ入れも身体拘束も可能)
・豊富な人員と物量により、しかも税金で運営されているため、採算度外視で分析可能(予算はあるでしょうが)
(弁護人)
・集められた証拠のオコボレだけを開示されるのが原則
・弁護人がようやっと見つけた証拠であっても、検察官が「不同意」という権限はあるから(弁護人も検察官提出証拠に対して不同意する権限はあるが)、それが実質的に提出できない=法廷に顕出しない、ということもある
・弁護士法23条の2に基づく照会手続もあるが、時間と手間がかかる
・人員は1名が原則、裁判員裁判でも2名まで
つまり、開示された証拠の矛盾点を衝くという作業が中心にならざるを得ない弁護人。
しかも、柱となる証拠が「供述調書」であることも少なくありません。
そして、この調書の作成過程に問題があっても、書面上はそんな問題については当然まともに書かれているわけがありません。そこで、作成過程の録画録音を見たくなります。

ところが、我が国では、作成過程の録画=取り調べの可視化=は基本的にされていません。
(韓国ではされている)そして、警察段階では、今でもされる見通しがまったく立ちません※。
※日弁連が折衝しているが、警察段階での録画(可視化)は当面断念する方向だそうです。

この時点で、日本の刑事裁判が、武器対等になっていないということが、非常に問題があるように思います。
こういう構造を極大化すると、こういうことが生まれ得ます。
というか、こういう事件ってのはあると思います。

捜査「あいつ犯人じゃねーか!?」という見込み
       ↓逮捕状請求(見込みだけでは令状出ないのが建前だが・・・)
被疑者逮捕
被疑事実を否認
       ↓実名報道
捜査機関→マスコミ経由でプロフィール晒される
しかも「容疑者は容疑を否認している」と、最初から犯人なのになぜ否認してんだよという受け取られ方をしても仕方ない状態になる
       ↓取り調べ
勾留決定、ついでに接見禁止=家族と会えない
       ↓家族と会えない状態での取り調べが続く
捜査「うーん、証拠が足りんねえ。よーし、ガサ入れやっちゃうぞ」
       ↓捜索差押令状請求
ガサ入れ
エロ本やエロビデオ(それもアブノーマルなの)が多数採取される→証拠A
同時に、被疑者が犯人ではないことを示す事情も採取される→証拠B
       ↓
捜査機関→マスコミ経由で証拠Aが晒される
       ↓
被疑者、社会的に死亡
被疑者家族、心労にあう
       ↓取り調べ
被疑者、娑婆のこうした実情を耳にして、心理的に強い圧迫を受けるとともに、絶望感を抱く
(人によってはこの段階で自殺するパターンもありうる)
       ↓
捜査機関「それでも落ちん!よっしゃ家族行ったれ」
       ↓
捜査「息子さんに何か言いたいことはない?お母さん」
母「接見禁止で会えないのでなんともいえません・・・」
捜査「もしやってたとしたらどう思います?」←「やっている」という仮定に基づいて答えを誘導
母「やってたのならちゃんと償ってほしいですが・・・」(当然そう答えるよな)
       ↓調書作成
母の供述調書「私は、今回の事件で、ショックで、体調がとても悪くなりました。毎日マスコミがやってきて、病院にもちゃんと行けておらず、家で寝ていますが、立っているのもやっとの状態です。息子が、もし悪いことをしていたのなら、それはいけないことなので、きちんと罪を償ってもらいたいと思っています」
       ↓取り調べで被疑者(息子)に見せる
捜査「お母さんはこう言ってるらしいぞ?もう楽になったらどうだ」
       ↓
被疑者、自白
       ↓
報道「容疑者が罪を認めました!」
  おきまりのプロファイル崩れのプロフィール晒し報道本格化
  2ch祭り状態
       ↓
公判請求
証拠調べ請求→証拠Aだけを提出
          証拠Bは提出せず
       ↓
弁護人=証拠Aしか開示請求できないのが原則(刑訴299)
      証拠Bは日の目を見ず握りつぶされる
       ↓
判決:有罪

こういうことなんですよね。
捜査機関にロックオンされてしまうと人生終了。

どこをどうするべきか、というのは、あまりにも多すぎますね。
ただ、根本的な問題は、やはり、「武器対等」これが確保されていないということに尽きるのではないでしょうか。

冒頭述べたように、裁判とは戦争に似ていると思います。リソース勝負です。
特に刑事裁判は、その物量に圧倒的な差があることを、市民の皆さんにも意識してもらいたいなと思います。

ついでにいえば、上記の説例で、もし「無罪」になったとき。
もしくは、証拠不十分で公判請求されず「不起訴」となったとき。
この被疑者は、エロ本・エロビデオを晒され、自分の性癖を晒され、一旦は犯人扱いされたわけです。そして、今の時代は、ネットで炎上状態になったりしますので、それは未来永劫残ることになりますから、社会復帰には相当な困難が伴います。
そうした場合のケアは、「無罪」の場合は、刑事補償請求で、金銭的解決が図られますが、「不起訴」の場合は、国賠を起こすしかありません。が、捜査機関の捜査の不適切さを違法レベルまで持っていくことは、なかなか大変です。
ネット炎上状態については、ケアはされません。

そう考えたら、ひどいなあと思います。

引用:国連で、日本の刑事司法が「中世レベル」と酷評されてしまう理由を、説例を交えて説明します|弁護士法人 向原・川上総合法律事務所/福岡の家電弁護士のブログ