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刑事弁護というものがいかに個々の弁護士の使命感に支えられているかご理解 <元検弁護士のつぶやき>



何故、橋下弁護士批判なのか。

 光市事件に関しては、ネットではたぶん私が最も安田弁護士を批判してきた弁護士の一人だろうと思います。
 同時に、今、光市弁護団以外の弁護士では、私が橋下弁護士を最も声高に批判している弁護士の一人だろうと思います。
 一見すると矛盾する批判のように見えるかも知れませんが、実は根は同じなのです。

 私が、安田弁護士(足立弁護士も含みますが)を批判するきっかけになったのは、最高裁弁論のドタキャンでした。
 その最大の理由は、(当時の情報に基づく限りにおいてですが)、安田弁護士らのドタキャンは、弁護人抜き法案の材料にされかねないという危惧を覚えたからです。

 そして今、私が橋下弁護士の懲戒扇動を批判するのは、それよりはるかに深刻に刑事弁護制度全体に対する悪影響を懸念するからなのです。

 司法試験制度の改革(改正かどうかはともかく)により、私が合格した当時よりも司法試験合格者の数は増えましたから、弁護士の数も増えることが予定されています。
 しかし、それにもかかわらず刑事弁護士の数は今後も十分確保される見通しが立たないのです。
 
 弁護士が増えたとしても、弁護士の大都市集中の傾向は変わらないと思われますので、地方都市における弁護士の数が今後劇的に増えるとは思えません。
 また、大都市・地方都市の別にかかわらず、自営業者たる弁護士の経営基盤は民事事件である場合がほとんどです。
 なぜならば、刑事事件の依頼者の多くは資力に乏しいからです。
 また、刑事事件は民事事件に比べて時間効率が悪い場合が多いです。
 民事事件においては、依頼者との打ち合わせ等は、依頼者に事務所まで来ていただいて行うことができますが、刑事の身柄事件(被疑者・被告人が逮捕・勾留されている事件)では、弁護士が警察や拘置所まで出向かなければなりません。
 そして、警察や拘置所は、弁護士の事務所から近い場所にあるとは限らないのです。

 時間効率の面で今後さらに問題になるのは、裁判員制度実施またはその予行演習的な公判の集中審理です。
 集中審理のためには、一定期間その事件に文字通り集中しなければならず、その期間は他の事件を並行して行うことが困難です。
 また、起訴前の段階においても、刑事の身柄事件は、被疑者の逮捕に即座に対応しなければなりませんから、民事事件よりはるかにタイムマネージメントが困難になります。
 言い換えますと、いつ起こるかわからない被疑者の逮捕に即応するためには、時間的余裕がなければならないということであり、弁護士の数がそれなりにいたとしても、たまたま時間的余裕がある弁護士でなければ有効な刑事弁護ができないということなのです。

 さらに、平成18年から施行された被疑者国選制度とその拡大に対応するためには、これまでよりはるかに多くの刑事弁護士(刑事弁護に即応可能な弁護士)が必要になります。

 このように刑事弁護を巡る状況は本来的に厳しいものがあるのですが、そこに刑事弁護に対する無理解が重なりますと状況はさらに深刻になってきます。

 世間の批判と非難を集めるような被告人(オウム事件、光市事件、和歌山カレー事件のような事件の被告人)の弁護人になると、顧問先から顧問契約を打ち切られたりして単に時間的ロス以上の経営に対する悪影響が生じる場合があります。

 思いつくままに刑事弁護を取り巻く状況を述べてみましたが、刑事弁護というものがいかに個々の弁護士の使命感に支えられているかご理解していただけると書いた甲斐があるというものなのですがいかがでしょうか。

 そこに降ってわいたのが、橋下弁護士の懲戒扇動問題なのです。

 橋下弁護士が扇動した懲戒請求自体は、理由のないものです。
 理由がないものなのだったらほっとけばいいじゃないか、という意見もあります。

 しかし、今回の懲戒請求扇動は、刑事司法に無理解な世間の声に迎合したテレビ発言を発端としており、その後に誤りを認めるのであればともかく、テレビタレントとしての発言力と知名度を利用して、さらにテレビやブログで自己の発言を「世間」に向けて正当化し続けているのです。

 橋下弁護士のこれらの一連の言動は、懲戒手続の結果如何にかかわらず、これから刑事弁護に携わろうとする多くの弁護士の現実的負担や不利益を増大させるものであり、その必然的な結果として、これから刑事弁護に熱意と使命をもってもらわなければならない若手・中堅の弁護士のモチベーションを深く傷つけ、一人でも多くの弁護士が刑事事件を担当しなければ維持することすら困難な刑事弁護制度の運営をより深刻化させるものと思われるのです。

 これが批判せずにいられるでしょうか、というのが私の気持ちです。
モトケン (2007年11月11日 00:24) | コメント(157) | トラックバック(4) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:何故、橋下弁護士批判なのか。 – 元検弁護士のつぶやき

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あらためて橋下弁護士の懲戒扇動の罪の大きさを感じます<元検弁護士のつぶやき>



橋下弁護士の懲戒請求350人 (続報追記)

市民ら350人、橋下弁護士の懲戒請求へ 光市事件(asahi.com 2007年12月16日08時01分 ウェブ魚拓)

 既に別エントリのコメント欄で議論されてますが、あらためて紹介しておきます。

追記

橋下氏に懲戒処分を 市民342人が大阪弁護士会に請求(asahi.com 2007年12月17日 ウェブ魚拓)
340人が橋下氏の懲戒処分を請求(産経ニュース ウェブ魚拓)

関係者によると、賛同する市民らが9月以降、知人に声をかけるなどして広がったという。(asahi.com)

 このとおりであるとすると、必ずしも府知事選に対する影響を目的とした懲戒請求ではないかも知れませんが、橋下弁護士自身が

「特定の集団が懲戒請求したならば、政治活動への重大な挑戦で悪質だ」(asahi.com) 「特定の弁護士が主導して府知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求したのなら、私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」(産経)

と(報道内容は微妙に違いますが)コメントしているように、選挙に対する何らかの効果を狙ったのではないかと憶測する人が多いのではないかと想像されます。

 今回懲戒請求をした人たちの真意はともかく、そのように感じる人が多いということは、今後の選挙において弁護士が立候補した場合において、弁護士である候補者に対する攻撃手段として懲戒制度を利用しようとする人間が生じる可能性が高まったことは事実ではないかと思われます。

 そしてその原因を作ったのは、橋下弁護士に他ならないと考えざるを得ません。

 今回の懲戒請求が、17日にまとめて提出されたのかどうかは必ずしも明確ではありませんが(記事によればそう読めます)、橋下弁護士のテレビ発言以前には、直接的な利害関係のない多数の集団が特定の弁護士の懲戒を請求をするということは誰も思いつかなかったのではないかと思います。

 今後さらに弁護士の活動領域は増えていくと思われますが、その領域のほとんどは利害関係の対立するいわば修羅場への介入だと思われますので、当然対立する個人または陣営が存在する場合が多く、対立当事者らが多数の懲戒請求を行って弁護士に対抗しようとすることが予想されます。
 そうなるとその反動として、請求された弁護士から請求者に対する損害賠償請求さらには刑事告訴を行う場合が増えてくるかも知れません。

 このような事態は、紛争を無用に紛糾・複雑化させるものであり(つまり泥仕合になる)、懲戒制度の濫用が懸念されるところです。

 あらためて橋下弁護士の懲戒扇動の罪の大きさを感じます。
 そしてその罪は、橋下弁護士自身が多数の懲戒請求を受けたからと言っていささかも減じるものではないと考えます。

「・・・私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」とコメントした。

 じゃあ、あんたの懲戒扇動発言はなんだったんだよ、と言いたいところです。
モトケン (2007年12月18日 00:22) | コメント(96) | トラックバック(5) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:橋下弁護士の懲戒請求350人 (続報追記) – 元検弁護士のつぶやき

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「橋下氏はあまりに軽率」というのはえらく控えめなコメントですね<元検弁護士のつぶやき>


あまりにも当然の結論
光市母子殺害、弁護団懲戒はせず 広島弁護士会(asahi.com 2008年04月02日20時04分)
 懲戒請求された今枝仁弁護士(同弁護士会)は「当然の結論。橋下氏はあまりに軽率」と話した。
 橋下氏が扇動した懲戒請求に関する限り、当然の結論と言えば当然の結論なんですが
 「橋下氏はあまりに軽率」というのはえらく控えめなコメントですね。
 バカ正直に言わないのが大人ですが(^^)
モトケン (2008年4月 2日 21:50) | コメント(1) このエントリーを含むはてなブックマーク  (Top)

引用:あまりにも当然の結論 – 元検弁護士のつぶやき

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