ーー検察は、とかく名誉毀損やプライバシー侵害の「おそれ」を強調します。
今回のことで言えば、NHKからは顔にはマスキングをすると聞いていました。本人やお母さんの了解も取れている中、いったい誰の名誉が毀損されるんですか?
弁護士が誰かに見せるとしても、誰にでも見せる、というわけではありません。相手がどういう人で、どういう事項が書かれている書面かなどを検討し、問題がないかを確認します。しかも、今回のことは、明らかに公益性があると思います。
この事件は、裁判は終わっており、もっぱら国民の知る権利や報道の自由の問題ですが、冤罪事件などでは支援者に記録を見せることも必要な場合があります。弁護人だけでなく、いろんな人の頭で考えると、アイデアも湧いてくるものです。そういう場合は、被告人や再審請求人を弁護するために、様々な人の知恵を借りながら証拠を検討する必要があります。それが報道されたとしても、裁判は法廷に出された証拠のみで判断するわけですから、影響が出るはずがない。それで、いったいどういう弊害があるんでしょうか?
(注1)刑事訴訟法281条第4項は、被告人や弁護人、またはそういう立場だった者は、裁判準備のために検察官から開示された証拠を、利用してよい裁判手続きが列挙し、「(それ)以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。」としている。裁判員裁判の導入に伴って、迅速で効率的な審理のための公判前整理手続きが行われることになり、以前より証拠開示の範囲が広くなったが、その一方で、弁護士らの行動を縛るこの項目が付け加えられた。
刑事訴訟法第281条の4
被告人若しくは弁護人(第440条に規定する弁護人を含む。)又はこれらであった者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、次に掲げる手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。
当該被告事件の審理その他の当該被告事件に係る裁判のための審理 当該被告事件に関する次に掲げる手続 イ 第1編第16章の規定による費用の補償の手続 ロ 第349条第1項の請求があった場合の手続 ハ 第350条の請求があった場合の手続 ニ 上訴権回復の請求の手続 ホ 再審の請求の手続 ヘ 非常上告の手続 ト 第500条第1項の申立ての手続 チ 第502条の申立ての手続 リ 刑事補償法の規定による補償の請求の手続前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。