憲法で定められた自由をむやみに制限することは許されません。政府が危険地域と判断しただけで、その国への渡航を禁止するのは、憲法の規定に真っ向から抵触します/弁護士ドットコム

この男性は「イスラム国」の支配地域に入るつもりはなかったと説明しているが、はたして「渡航差し止め」の必要はあったのだろうか。猪野亨弁護士に聞いた。

●憲法22条で保障された「海外渡航の自由」

「政府は、旅券返納の理由について、男性の安全確保をあげています。しかし、そうなると生命の保護という口実で、政府が一方的に旅券を返納させることが可能になってしまいます。大きな問題をはらんでいると言えるでしょう」

猪野弁護士はこのように切り出した。

「政府は、閣議で『イスラム国』が集団的自衛権行使の対象になりうるとの答弁書を決定しています。そのことが、シリアを含めた『イスラム国』の影響下にある地域における邦人の危険を招いたという評価も、あり得るところです。

そういった地域を含む国に行こうとする人がいた場合、今回のように旅券法を理由にすれば、出国自体を禁止できることになってしまいます。しかし、そうなると、紛争地域の実情を取材することは不可能になります。

そもそも、憲法22条1項によって『海外渡航の自由』が保障されています。これは、経済活動の自由の一つとして考えられていた時期もありましたが、現在で主流なのは『人は本来的に、行きたいところへ行く自由がある』という考えです。

憲法で定められた自由をむやみに制限することは許されません。政府が危険地域と判断しただけで、その国への渡航を禁止するのは、憲法の規定に真っ向から抵触します」

旅券法だけでなく、憲法の観点も大切なようだ。

「渡航を制約すれば、政府にとって都合の悪い情報をシャットアウトすることを認めることにもなりかねません。この男性のように取材のためであれば、なおさらです。憲法21条で保障された『報道の自由』に対する制約にもつながるので、非常に問題です。

名義人の安全を理由にしていますが、その実は、政府の都合によって海外渡航の自由を制限していると言わざるを得ません」

猪野弁護士はこのように締めくくった。

(弁護士ドットコムニュース)

引用:シリア渡航を計画したら「パスポート」を回収された! 外務省は「憲法違反」?|弁護士ドットコムニュース