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私たちが死刑囚の写真を撮影・公表した理由(青木理)|第1回:法務省から届いた噴飯物の抗議文

『FRIDAY』に掲載された拘置所内の”元少年”の写真。
法務省から送付された「抗議文」は噴飯物の内容だった。
刑事司法の歪みと、メディアと事件報道のあり方を
根本から問い直す問題提起ルポ

さる5月31日のこと、東京都内にある私の仕事場に、一通の封書が郵送されてきた。速達の簡易書留で、消印は5月30日付。封筒の表側下部には「名古屋拘置所」と仰々しく印刷されていたが、脇に添えられた日付欄は空白のままで、封筒を裏返してみても差出人の記載すらない。

表側にボールペンで書いたらしき住所と氏名は、間違いなく私宛となっていた。ただ、その文字はミミズがのたくったような筆致で、失礼ながら中学生程度の子どもが書いたものにしか見えなかった。

何かのイタズラだろうか。一瞬、本気でそう思ったが、名古屋拘置所からの手紙は身に覚えがないわけでもない。封筒を開けてみると、案の定だった。一枚だけ封入されていたA4判の紙切れには、ひときわ大きく「抗議文」と記され、次のような文言がワープロ打ちで綴られていた(以下の引用は原文ママ、一部略)。

青木 理殿

名古屋拘置所長 小野 修(印)

本月12日(木)に発売された週刊誌「フライデー」に、当所の被収容者の面会中の姿を撮影した写真が掲載されていますが、当所における調査の結果、上記写真は、本年3月11日、貴殿らが当該被収容者と面会した際に撮影されたものであると認められました。

今回の貴殿らの行為は、面会室内への撮影機器等の持込禁止に反し、刑事施設に関する法令で認められないものであることに加え、刑事施設に収容されている個人のプライバシー保護にも重大な問題を生じかねないものでもあることから甚だ遺憾であり、ここに厳重に抗議します。

一読し、失笑した。法令で認められない? 個人のプライバシー保護? ふざけたことを言うものではない。拘置所を所管する法務省は公安調査庁などの人権抑圧機関を傘下に従え、後述するように各地の拘置所当局は未決の被告人の外部交通すら徹底監視している。その拘置所がプライバシー保護を云々するなど、たとえは悪いが、他人の財産権を侵してはならぬと泥棒から説教されるに等しい。呆れ果てて封筒ごとゴミ箱に放り捨てたくなったが、同時に激しい憤りもわき起こってきた。ここに至るまでの一連の出来事には、断じて看過できぬ問題が数々含まれているからだ。それは、この国の刑事司法の根本部分に関わり、さらにはメディアと事件報道の在り様にもつながる大問題である。

そのことを記す前に、まずは名古屋拘置所長が、「抗議文」なるものを送りつけてきた理由として挙げた『FRIDAY』誌の記事について、概略を説明しなければならない。

引用:G2|私たちが死刑囚の写真を撮影・公表した理由(青木理)|第1回:法務省から届いた噴飯物の抗議文〈1〉

▶ 袴田事件の袴田死刑囚が認知症?青木理が袴田事件の再審請求を解説! – YouTube/

2013/12/02 に公開

1966年に発生した「袴田事件」の犯人として収監されている袴田巌死刑囚が認知症で­はないかと騒がれています。
「袴田事件」は問題が多く、冤罪ではないかとっも言われていますが、ジャーナリストの­青木理さんが再審請求の現状を解説しています。

引用:▶ 袴田事件の袴田死刑囚が認知症?青木理が袴田事件の再審請求を解説! – YouTube

今回の公判は、日本の刑事司法の歪みを照らし出している。先ほども申し上げましたが、今回の事件では、警察・検察側も脆弱な状況証拠しか出せていません。

──美由紀の弁護士は国選です。

青木 ええ。1審と2審は別々の弁護団で、いずれも国選ですが、1審の弁護人はヒドかった。弁護方針もブレブレで、メディア取材も拒否。失礼だけど、死刑という究極の刑罰がかかる重大事件の弁護団としては、明らかに力不足でした。

──裁判官はいかがでしょうか?

青木 1審・鳥取地裁の裁判官は比較まっとうでしたが、結局は検察の脆弱な立証を丸呑みして死刑判決を下していますからね。裁判員だって黙秘権の意味をろくに理解していない状態で、これは明らかに裁判長の責任でしょう。鳥取である人に聞いた話ですが、警察にせよ、弁護士にせよ、刑事司法に関わる人々の平均レベルが低いのも地方都市の現実だと。そうなのかもしれません。

──昨年の12月10日から控訴審が始まり、美由紀は1審での黙秘から一転、口を開きましたが、これはどう考えますか?

青木 美由紀は1審で黙秘権を行使して口を閉ざしましたが、美由紀の弁護団は起訴事実を否認するにとどまらず、「安西こそが真犯人だ」とまで主張していました。驚きの主張でしたが、2審で口を開いた美由紀の証言は、基本的にそれをなぞるものだったといえます。明確に安西が犯人だと言ったわけではないけれど、一緒に暮らしていた安西の事件当時の不審な行動を数々指摘し、誰が聞いても「安西が犯人だ」という内容でした。しかも極めて具体的で詳細。ただ、それはほとんどウソだと思います。

 さりとて、1審で安西が証言したことにも明らかにウソが含まれている。安西によれば、美由紀から三つ子を妊娠したと言われて信じていた上、出産予定日を過ぎてから薬物で子どもを小さくして堕胎したと聞かされ、これも警察に教えられるまですべて信じていたと訴えました。もともと安西はやり手の自動車セールスマンで、40代の半ばを過ぎた妻子ある中年男ですよ。そんな安西の主張を信じろというほうが無理です。つまり美由紀も安西もウソをついていて、裁判は真実をほとんど明らかにできていない。

──控訴審以降の裁判の見通しについては、どうお考えでしょうか?

青木 死刑判決が覆る可能性は極めて低いでしょう。そもそも日本の刑事司法は、検察が起訴した際の有罪率が99%を超え、1審でのわずかな無罪判決すら2審でひっくり返されてしまうことが多い。広島高裁松江支部で始まった控訴審は、裁判長が美由紀に証言の時間を与えましたが、1審で黙秘した被告が2審で証言すると言っているのにしゃべらせないわけにはいかないという判断でしょう。死刑という究極の刑罰がかかった裁判なのに、審理が尽くされていないじゃないかと批判されかねませんからね。従って美由紀の証言を受け入れる可能性は薄いと思います。

 ただ、今回の公判は、日本の刑事司法の歪みを照らし出している。先ほども申し上げましたが、今回の事件では、警察・検察側も脆弱な状況証拠しか出せていません。しかも、それを支えているのは、これも怪しげな安西の証言。それなのに死刑判決です。「このままで本当にいいのか?」という私の思いは今も変わりません。
(取材・構成=本多カツヒロ)

●あおき・おさむ
1966年、長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクションライター。共同通信社警視庁公安担当、ソウル特派員などを務めた後、2006年からフリーに。主な著作に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ 徳田虎雄 不随の病院王』(小学館文庫)、『国策捜査』(角川文庫)など。最新作が『誘蛾灯 鳥取連続不審死事件』(講談社)。朝の情報番組『モーニングバード!』(テレビ朝日系)のコメンテーターなど、テレビ、ラジオでも活躍中。

引用:ジャーナリスト青木理が語る鳥取連続不審死事件──毒婦と地方格差と劣化する刑事“地方”司法の問題点 – 芸能 – 最新ニュース一覧 – 楽天WOMAN