そのような取り調べの末に「合意」がなされ、弁護人もチェックできず、法廷でも虚偽供述が維持されたら……。このような事態は想定しておかなければならない。これを防ぐためには、可視化するしかないだろう。/ジャーナリスト江川紹子

そのような取り調べの末に「合意」がなされ、弁護人もチェックできず、法廷でも虚偽供述が維持されたら……。このような事態は想定しておかなければならない。これを防ぐためには、可視化するしかないだろう。

今回の法案では、取り調べの可視化に関しても法制化がなされることになっている。しかし、その対象は裁判員対象事件と検察の独自捜査事件(いわゆる特捜事件)のみ。全事件の2%であり、「合意制度」の対象事件は可視化法制化の対象ではない。

「合意制度」を活用する可能性のある事件の被疑者の取り調べは、可視化するべきではないか。少なくとも、音声の録音だけでも行って、その「合意」が適切に行われたと示せるようにしておくべきだ。

司法取引的手法が、捜査に役立つことは、今回のFIFAでよく分かった。犯罪の手口が進化してくれば、新しい捜査手法も必要だろう。ただ、新しい制度を導入する時には、その弱点はできるだけ克服しておきたい。

「可視化なくして『合意』なし」——これを原則にして、日本版の司法取引をスタートさせて欲しい。【了】

注・引野口事件で検察側証人となったB子は、覚せい剤の前歴があり、実刑判決になった。また、美濃加茂市長の事件で、業者のNは、その後、市長の弁護人が融資詐欺の余罪を告発され、そのうち4000万円分が追加起訴されることになって、実刑判決を受けた。

引用:【江川紹子の事件簿】FIFA汚職と刑事訴訟法改正案──改めて問われる取り調べ可視化 – Mulan